こんにちは、名古屋で国際税務サービスを提供している税理士 曽我です。
先日、与党の令和7年度税制改正大綱が公表されました。今回はそのうち国際課税分野(P.83〜)の主な改正について簡単に紹介します。
今回の国際課税分野の改正は、件数としては多くなく、1. OECDの議論に則ったグローバルミニマム課税のアップデート、2. 外国子会社合算税制(タックスヘイブン対策税制)の事務負担軽減、が主なものです。いずれについても、そもそもこれら税制の対象にならない会社には、改正の影響はないと思われます。
1. グローバルミニマム課税のアップデート
まず、グローバルミニマム課税の対象となりうるのは、連結総収入金額が750百万ユーロ(約1,200億円)以上の多国籍企業(グループ会社を含む)です。このような大規模な企業でなければ、海外子会社を持っていても今回の改正は影響ありません。
税制改正大綱を見ても見慣れない用語もありわかりづらいので、これまでの税制改正も含めて、日本のグローバルミニマム課税への対応の概要をまとめてみました。
- 令和5年度税制改正で創設
- 法人税法上の呼び名は、国際最低課税額に対する法人税
- 適用開始は2025年3月期〜
- 子会社所在国の税率が15%未満の場合に親会社所在国で15%まで課税
- 今回の税制改正で創設
- 適用開始は2027年3月期〜
- 国際最低課税残余額に対する法人税(仮称)
- 親会社の所在国でIIRが適用されない場合に、子会社で課税
- IIRがない国に最終親会社がある外資系企業の日本子会社に適用可能性があるイメージ
- 今回の税制改正で創設
- 適用開始は2027年3月期〜
- 国内最低課税額に対する法人税(仮称)
- 基本的に自国の会社に15%まで課税
- 外国のQDMTTによる課税額は自国のIIRの計算で除外される
- 日本での税率が15%を下回ることはあまり想定されないため、日本で適用されるケースは限定的か
日本企業にとっては、すでに導入済みの所得合算ルール(IIR)をメインで検討することに変わりなさそうです。
2. 外国子会社合算税制(タックスヘイブン対策税制)の事務負担軽減
外国子会社合算税制(タックスヘイブン対策税制)は、低税率国で子会社を通じて経済実態のない所得を得ている場合に、日本親会社でその所得に課税されるというものです。
そもそもタックスヘイブン対策税制の対象にならない会社は、今回の改正の影響を受けません。
今回の改正では、①合算課税のタイミングの後ろ倒し、②添付書類の緩和、が行われ、一定の簡素化が図られることになります。
①合算課税のタイミングの後ろ倒し
合算課税を行うタイミングが、外国関係会社の事業年度終了の日の翌日から4月(現行は2月)を経過する日を含む内国法人の事業年度とされます。
つまり、日本親会社が3月決算で外国子会社が12月決算の場合、外国子会社の12月決算について、日本親会社の次の3月決算ではなく、次の次の3月決算で合算課税することになります。
これまでは、外国子会社の現地決算や税務申告が完了していない場合に、日本親会社側で見込み数値により合算課税を計算する実務が行われていたと思います。今回の改正により、このような実務対応が少なくなりそうです。
この改正の適用時期は、上記の例では次のようになります。
- (現行)外国子会社の2023年12月期 → 日本親会社の2024年3月期に合算課税
- (現行)外国子会社の2024年12月期 → 日本親会社の2025年3月期に合算課税(ただし、経過措置として2026年3月期に合算課税することもできる)
- (改正後)外国子会社の2025年12月期 → 日本親会社の2027年3月期に合算課税
毎年合算課税を適用しているような会社の場合には、日本親会社で合算課税の適用を受けない事業年度が出てくることになります。
②添付保存書類の緩和
合算課税の対象となるケースでは、日本親会社の申告書に、外国子会社の財務諸表や申告書などの一定の書類を添付する必要がありますが、その書類から次の書類が除かれることになります。
- 株主資本等変動計算書
- 勘定科目内訳明細書
勘定科目内訳明細書は監査済み財務諸表の注記等で代用する実務もあったように思いますが、代用できるものもない場合においてもわざわざ作成する必要がなくなります。
まとめ
以上、令和7年度税制改正大綱の国際課税分野の主な改正を見てみました。
今回の改正の影響を受ける会社はあまり多くないかもしれませんが、何かのお役に立てれば幸いです。